日本中の居酒屋マニアを熱狂させている「伝串」をご存知でしょうか?鶏皮をパリモチ食感に仕上げた1本50円の革命的な串が、累計販売本数2.6億本を突破した大ヒット商品です。この伝串を生み出した居酒屋チェーン「新時代」の裏側には、元ブラジルプロサッカー選手の熱き物語と、10回の失敗を乗り越えた開発秘話が隠されていました。
ブラジル・スラム街で芽生えた「健康と笑顔」への執念
新時代「伝串」が熱い!~元サッカー選手が作ったパリモチ革命の全軌跡~氏の半生は、まさに波乱万丈の連続でした。高校卒業後、単身ブラジルに渡りプロサッカー選手として活躍するも、25歳で引退を余儀なくされます。その原点には、スラム街のチームメイト家族との出会いがありました。全財産をはたいてもてなしてくれた彼らへの恩返しが、「健康でおいしい料理で人を幸せにしたい」という理念の礎となったのです。
当時のブラジルでは、スラム街の平均寿命が40歳という過酷な環境下で、「健康であること」が最大の財産だと痛感しました。この経験が後に伝串開発において、高麗人参入りタレや大豆プロテインスパイスという「健康要素」を取り入れる決定的な動機となります。
開発チーム全員に見放された「伝串」誕生秘話
2006年の株式会社ファッズ設立後、佐野氏は専門家6人を集めて伝串開発を開始します。しかし試作を重ねる度に「美味しいが売れない」と繰り返し、2年間で10回ものお披露目会を開催するも、ついにメンバー全員が離脱。絶体絶命の状況で佐野氏が気付いたのは、「美味しさだけでは足りない。ブラジルで学んだ『健康価値』が必要だ」という気付きでした。
独りきりで始めた試行錯誤は苛烈を極めます。冷蔵庫は高麗人参タレの試作品で埋め尽くされ、睡眠時間を削ってスパイスの配合を研究。「余分な脂を落としコラーゲンを残す」独自の揚げ技術、塩分ゼロの大豆プロテインスパイス、高麗人参の苦味を消した甘辛タレ、これらの要素が組み合わさり、やっと完成したのが現在の伝串です。
特許3件・商標5件で守る「唯一無二」のこだわり
伝串の爆発的人気は模倣品を続々と生み出しました。これに対し佐野氏は、鶏皮の波形串打ち技術で特許3件を取得。「伝串」「パリモチ」「あげかわピラミッド」など5つの商標登録でブランドを保護。2022年には公式サイトに「伝串模倣の禁止」を大書し、法的措置も辞さない姿勢を明確にしました。
しかし2024年7月、消費者庁から「税込価格の表示不適切」で景品表示法違反の措置命令を受けるという試練も。この件では店頭看板の小さな税込表記が問題視され、現在は「50円(税込55円)」と明確に表記するよう改善されています。
全国170店舗で巻き起こる「伝串ピラミッド現象」
新時代の店内で最もインスタ映えするのが、10本・21本・36本をピラミッド状に盛り付ける「伝串ピラミッド」です。SNSでは#伝串ピラミッドのタグが毎日更新され、沖縄初出店の那覇久茂地店ではオープン4日間でドリンク全品94円キャンペーンを実施。2025年3月現在、全国170店舗を展開し「1000の街を元気にする」をスローガンに拡大を続けています。
客単価2000円台ながら利益率25-35%を維持する秘訣は、生産者との直接取引と食材の無駄ゼロ戦略。メニューの9割が480円以下という破格の価格帯で、「うまい・安い・健康」の三拍子を実現しています。
サッカー界との深いつながり~アトレチコ鈴鹿とのコラボ~
2025年、佐野氏の古巣であるJFL・アトレチコ鈴鹿と異例のコラボが実現します。クラブの胸スポンサーに「さのなおし」の個人名が入り、日本初の「個人名ユニフォーム」として話題を呼びました。これはサッカーへの恩返しと、地域活性化を兼ねた画期的な試みです。
伝串が変える居酒屋の常識~次なる進化は?~
現在、伝串の派生メニューとして「伝串赤」が注目を集めています。従来の辛味重視から、鶏ガラスープで旨味を強化した進化版で、若い女性層から支持が広がっています。また2025年4月の京都木屋町店オープンでは、累計販売2.6億本を記念し、特製スパイスの販売を開始。家庭で再現できるキットの開発も進行中です。
佐野氏は「伝串を通じて、日本の食文化に健康という新たな価値を刻みたい」と語ります。元プロアスリートならではの視点で、タンパク質豊富なメニュー開発やアスリート向け栄養メニューの提供も計画中です。
行列の先にあるもの~地域社会との共生~
新時代が掲げる「1000の街を元気にする」ビジョンは、単なる店舗拡大ではありません。各店舗で平均20人の雇用を創出し、地域の消費活性化と犯罪防止に貢献。那覇店オープンでは地元食材をふんだんに使った限定メニューを導入するなど、地域密着型の運営を推進しています。
伝串1本から広がるこの社会貢献モデルは、外食産業の新しい可能性を示しています。50円の串が、雇用を生み、街を明るくし、人々の健康を支える、佐野氏の「食を通じた社会変革」の挑戦は、まだ始まったばかりです。