女子プロゴルフ界に新たなヒロインが誕生した。2025年4月、KKT杯バンテリンレディスオープンでプロ5年目の佐久間朱莉(22)が、ついにツアー初優勝を成し遂げた。記念すべき勝利は、なんとプロ123戦目。過去に4度の2位を経験し、同期や後輩たちが先に栄冠を手にする中で、苦しみ抜いた末の歓喜だった。
その背景には、ゴルフ界のレジェンド・ジャンボ尾崎との特別な師弟関係、そして数々の挫折と再起のドラマがあった。今回は、佐久間朱莉の優勝までの道のりと、ジャンボ尾崎との知られざるエピソード、そして彼女を支えた人々との絆を、たっぷりの裏話とともにお届けする。
原英莉花プロとの出会い、そしてジャンボさんへの弟子入り
佐久間朱莉がジャンボ尾崎の門を叩いたのは、中学生の時だった。きっかけは、すでにジャンボ尾崎の「長女」として知られていた原英莉花プロからの誘い。原プロは「一緒にジャンボさんのところで練習しない?」と佐久間を誘い、これが人生を大きく変える転機となった。
当時の佐久間は、まだ線が細く、技術も未熟だったが、ジャンボ尾崎は「うちに来れば練習の仕方を教える」と厳しくも温かい指導を始めた。ジャンボアカデミーは、285ヤードのドライビングレンジやショートコース、宿泊施設まで完備された特別な環境。そこには原英莉花、西郷真央、笹生優花ら、後にツアーを沸かせる逸材たちが集っていた。
佐久間は「私にとってジャンボさんは、中学生の時、ひょろひょろで何も分からない私を1から厳しく育てて下さり、夢だったプロゴルファーに導いてくれた恩人」とSNSで感謝を綴っている。
「3・3・3」の教えと、苦難の連続
ジャンボ尾崎が佐久間に授けた金言のひとつが「3・3・3」だ。「俺は最初と最後の3ホールを大事にしてる」という教えで、佐久間はこの言葉を胸に刻み、どんなに苦しい場面でも最初と最後の集中力を切らさないことを意識してきた。
プロテストにはトップ合格。しかし、同期の岩井姉妹や桑木志帆らが次々とツアー優勝を果たす中、自分だけが勝てない日々が続いた。2位は4回。母・美樹子さんに「なんで勝てないんだろう」と涙ながらに打ち明けたこともあった。
「自分が置いて行かれている気持ちになった」と語る佐久間。しかし、ジャンボさんの「まだまだだぞ!」という檄や、原英莉花プロからの「一緒に頑張ろう」という励ましが、彼女を何度も奮い立たせた。
データと感覚の融合――進化するショットメーカー
佐久間の強みは、ショットメーカーとしての精度と、最新テクノロジーを活用した緻密なゴルフ。グリーンの傾斜を計測する機器を使い、「右に1.5度」と正確に読み取る感覚は、日々の地道な練習の賜物だ。
今回の優勝でも、3日間54ホールのパット数は最少の「80」。13、14、17番で約5メートルのしびれるパーパットを沈め、「外しても死ぬわけじゃない」と強気で攻め抜いた。
ジャンボ尾崎が「頑張っている姿を見るのが好き」と語るように、佐久間はどんなに厳しい指導でも「こんなスーパースターに怒られるって幸せ」と前向きに受け止め、成長の糧にしてきた。
優勝の瞬間――涙と歓喜のウィニングパット
2025年KKT杯バンテリンレディス最終日。1打差2位からスタートした佐久間は、5バーディー・ノーボギーの67で回り、通算11アンダーで逆転優勝。6番のバーディーで首位に立ち、同じジャンボ門下の小林夢果に11番で一度並ばれたが、そこから一歩も譲らずに逃げ切った。
30センチのウィニングパットを沈めた瞬間、両手を広げて歓喜し、両親や同期の桑木志帆と抱き合って涙。過去の悔しさが一気に報われ、「やっと勝てた。自分を信じてやってきた結果が結ばれてうれしい」と笑顔を見せた。
師弟の絆、そして“ジャンボ軍団”の未来
ジャンボ尾崎は「かわいいもん。孫みたいなもんだろ?孫が一生懸命頑張ってるんだから」と、佐久間ら弟子たちへの愛情を隠さない。誕生日には弟子たちが集まり、満面の笑みを浮かべるジャンボさんの姿がSNSに投稿されるなど、師弟の絆はますます深まっている。
今回の優勝で、ジャンボ門下生の女子プロによるツアー制覇は原英莉花、笹生優花、西郷真央に続き4人目。ジャンボが女子育成に本腰を入れるきっかけとなった原英莉花プロ、そしてその縁で弟子入りした佐久間朱莉――この“ジャンボ軍団”から、今後も次々とスターが生まれる可能性は高い。
佐久間朱莉のこれから――「結果で恩返しを」
佐久間は「この感謝の気持ちは言葉じゃなく、結果で認めてもらえるような成績を」と語っている。今回の優勝はゴールではなく、あくまでスタート。ジャンボ尾崎の「まだまだだぞ!」という声に応えるべく、さらなる高みを目指していく。
「今年は勝ちにこだわって、ジャンボさんを笑顔にできるよう頑張ります」と力強く宣言する佐久間。その背中には、ジャンボ軍団の誇りと、仲間たちのエール、そして何よりも自分自身を信じ抜いた5年間の努力が詰まっている。
まとめ――“123戦目の初V”が示すもの
佐久間朱莉の123戦目での初優勝は、才能だけではなく、師弟の信頼、仲間との絆、そして何度倒れても立ち上がる強さが生んだ必然のドラマだった。ジャンボ尾崎という稀代の名伯楽と、原英莉花プロとの縁から始まったこの物語は、これからも多くのゴルファーやファンに勇気を与え続けるだろう。
「やっと勝てた」――その一言に込められた涙と笑顔の裏には、数えきれないほどの努力と、支えてくれた人々への感謝があった。佐久間朱莉の挑戦は、ここからが本当のスタートだ。