わずか2年で500万アカウントを突破した三井住友銀行と三井住友カードが提供する総合金融サービス「Olive(オリーブ)」。特に若年層から絶大な支持を集めるこのサービスの誕生秘話から最新動向まで、徹底解説します。
金融の常識を覆した「Olive」とは何か?
Oliveは2023年3月にサービスを開始した個人向け総合金融サービスです。銀行口座、カード決済、オンライン証券、オンライン保険などの機能を、アプリ上でシームレスに組み合わせた全く新しいサービスとして登場しました。「NEW STANDARD」を掲げ、従来の金融サービスの枠を超えた革新的なサービスを展開しています。
最大の特徴は、世界で初めて採用された「フレキシブルペイ」機能。1枚のカードでキャッシュカード、クレジットカード、デビットカード、ポイント払いという4つの機能をアプリで簡単に切り替えて使えるという画期的なシステムです。これはVisaが開発した新機能を世界に先駆けてOliveが採用したものです。
また、Vポイントが貯まるシステムも魅力の一つで、対象のコンビニ・飲食店でのスマホのタッチ決済で最大20%還元を受けることができます。さらに、SBI証券との連携により、投資と「ポイ活」を同時に行うこともできる点も、多くのユーザーに評価されています。
「Olive」誕生の裏側にいた3人の男たち
Oliveが生まれた背景には、ある3人の男性の存在がありました。当時、企画担当役員で後に三井住友フィナンシャルグループの社長になった太田純氏(故人)、システム担当役員で後に日本総合研究所社長になった谷崎勝教氏、そしてリテール担当役員で後に三井住友カードの社長になった大西幸彦氏です。
彼らは「コンサルティングを中心とした店舗に改革しよう」との意見で一致。谷崎氏と大西氏は欧州に出張し、デジタル社会に対応したスマートな銀行の店舗を視察しました。「これからは日本もデジタル社会になる。そんな時代にマッチした銀行にしなければならない」という強い思いから、日本総研を軸に銀行とカードのシステム共通化に取り組み、VISAカードと協力して世界初の「フレキシブルペイ」カードの開発に成功したのです。
この挑戦は容易ではありませんでした。革新的なサービスであるがゆえに、「理解しづらい」という壁もありました。三井住友カードのマーケティングユニットでOliveマスプロモーションを担当した青葉渉氏は「Oliveは全く新しい概念のサービスのため、お客さまに全体像をすぐにはご理解いただくのは難しい」と語っています。
若年層を中心に広がる「Olive」の波
Oliveは特に若年層からの支持が高く、新規で口座開設されたユーザーの約半数が20代以下という驚きの結果が出ています。また、アンケート調査によると、Oliveを利用した10代の90.8%、20代の91.1%が「利用して良かった」と回答しており、若い世代を中心にOliveの魅力が広がっていることがわかります。
リアルな利用シーンからも、その人気ぶりが伺えます。とある10代女性は「初めてのアルバイトの給料がOliveの口座に振り込まれたときに、一歩自立できたと思えた」と証言しています。また、20代女性からは「ずっと使っていた三井住友銀行の口座をOliveにできて大人になった気がした」という声も上がっています。
若い世代にとって、Oliveは単なる金融サービスではなく、経済的自立のシンボルとして機能しているようです。
「Olive LOUNGE」に見る新たな金融体験
Oliveのリアル店舗戦略として注目されるのが「Olive LOUNGE」です。銀行・カフェ・オフィスが一体になった新しいタイプの店舗で、2025年4月時点で東京に3店舗、大阪にも出店しています。
面白いのは、その使われ方です。米本氏(三井住友銀行の担当者)によると、渋谷の「Olive LOUNGE」は常に混雑しており、予想外の利用層として高校生が放課後に利用するケースが多いとのこと。「高校生が放課後に2人で使っておしゃべりをしているような使われ方をしていた。しかもOliveを提示して、ちゃんとOliver’s Placeを活用している」と米本氏は語っています。
これは金融機関の店舗としては極めて異例のことで、従来の「銀行=堅い、近寄りがたい」というイメージを覆す現象と言えるでしょう。
2025年4月7日にオープンした大阪市中央区の「Olive LOUNGE 船場」では、オープニングイベントに音楽クリエイターのヒャダインさんらが登壇し、トークイベントを行いました。ヒャダインさんは「船場周辺は青春時代を彩った思い出の場所」と語り、フルタニタカハルさんは「お酒の飲み放題のプランがあり、何杯飲んだら元が取れるかずっと考えていた」と冗談を交えて話したそうです。
「Olive」500万アカウント突破の背景
Oliveがわずか2年で500万アカウントを突破できた背景には、徹底したマーケティング戦略がありました。三井住友銀行リテールマーケティング部の山田茉椰氏によると、リリース当初は認知度0%からスタートし、各種プロモーションの結果、現在では認知度が6割弱まで上昇したとのこと。
また、サービスの継続的なアップデートも成功の要因です。他行口座からOliveアカウントへ自動入金できる「定額自動入金サービス」や、お手持ちのクレジットカードを最大5枚まで追加できる「支払いモード追加サービス」など、ユーザーニーズに応える機能拡充を重ねてきました。
さらに、積極的なキャンペーンも展開しています。現在も「Olive 500万アカウント突破記念大感謝キャンペーン」や「Oliveアカウント紹介プログラム」など、複数のキャンペーンを通じてさらなるユーザー獲得に力を入れています。
「Olive」の課題と今後の展望
もちろん、Oliveにも課題はあります。複数のユーザーから指摘されているのが、カードの機能切り替えがわかりにくいという点です。「物理カードやApple Pay上のカードの見た目が変わるわけではないので、実際の支払いの時に『今何で払っているのか』がわからず、クレジットカードで払いたいのに間違えてデビットカードで払ってしまう」というケースがあるようです。
また、カード種別の切り替えができないという制約もあります。「普通のクレジットカードのようにOliveカードを2枚持ちすることはできず、切り替えたい場合はいったん解約してから新規申し込みとなる」という仕様は、一般的なクレジットカードより不利な条件になってしまう場合もあります。
しかし、三井住友銀行はこれらの課題を認識しており、さらなる改善に取り組んでいるようです。福留朗裕頭取は「Oliveのサービスは個人向けのリテール戦略の扇の要であり、今後のリアル店舗の在り方についてもまずOliveありきで考え、その展開に合わせて店舗戦略も変えていく」と述べており、今後もOliveを中心とした戦略展開が期待されています。
まとめ:「Olive」が切り拓く金融の未来
「銀行口座」「決済」「証券」「保険」を1つにまとめたOliveは、従来の金融サービスの概念を根本から覆す挑戦的なサービスです。特に若年層からの強い支持を得て急成長を遂げていることから、今後の金融サービスの「NEW STANDARD」となる可能性を秘めています。
日常生活とシームレスに融合した新しい金融体験を提供するOlive。その背景にある開発者たちの熱い思いと緻密な戦略が、わずか2年で500万人もの人々の生活に新たな価値をもたらしました。今後も進化を続けるOliveから目が離せません。