Netflix映画『新幹線大爆破』が2025年4月23日に配信開始され、早くも大きな話題となっています。日本、シンガポール、台湾、香港で第1位、世界では第2位を記録し、80の国と地域でTOP10入りを果たすという驚異的な人気ぶり。今回は、この話題作の裏側に迫ります。
「ランドセルを背負って映画館へ」ー監督が明かす原作への愛
本作を手掛けた樋口真嗣監督は、1975年に公開されたオリジナル版『新幹線大爆破』の大ファン。小学4年生だった当時、「初日に観に行きたい気持ちが抑えられず」学校をサボってランドセルを背負ったまま映画館に駆け込んだというエピソードを持っています。
「痛快なパニック映画が見られると思っていたら、犯人グループが全滅していく流れだったり、事件に立ち向かう国鉄の人のカッコよさに衝撃を受けました。名もなき職員さんまで含めて匠の技が光っていたんですね」と当時の感動を語る樋口監督。「学校に行かなかった罪悪感はあったので『自分も爆破犯のような転落人生を歩んでいくのかもしれない』とも不安にかられた」と笑いながら振り返ります。
「爆発と共に人生を歩んできた」ー特撮へのこだわり
樋口監督の映画への情熱の根源には「爆発」への強いこだわりがあります。「私は昭和40年生まれで、爆発と共に人生を歩んできたような気がします」と語る監督は、子供時代に特撮やアニメのヒーローもの、『西部警察』シリーズなどの爆発シーンを見ては「鼻血が出るほど興奮していた」と明かします。
その執念が今回の作品では存分に発揮されています。現場では1/6スケールのミニチュア新幹線を作成し、最新技術とアナログを融合させた迫力ある映像を生み出しました。特に中盤の建物爆発シーンでは、「『西部警察』の頃に爆発を手掛けていたチームの後継者」によるテクニックを目の当たりにして「一人のファンとして撮影現場で震えていた」とも。
とりわけ注目すべきは、『シン・ゴジラ』などの先端CGとは異なるアプローチです。「今回は『どこまでCGを減らせるのか』を主眼に置いていました」と樋口監督は語ります。特撮メイキング画像では、ミニチュア線路での撮影準備や、燃え盛る炎とともに木片を飛び散らせる家屋の爆破シーンなど、アナログ特撮の魅力が伝わってきます。
JR東日本の全面協力で実現した「撮り鉄垂涎」の映像美
本作最大の特徴は、JR東日本の特別協力により実際の新幹線車両や施設を使用した撮影が実現したこと。当初、樋口監督は「協力は得られないと思っていた」と言いますが、JR東日本が「エンタメで東日本を盛り上げよう」と快諾。
撮影では特別な許可を得て、「保線員の方と同じ格好で線路際まで降りて」撮影したり、「線路の間にある小屋から新幹線を真横から撮らせてもらった」といった、普通では考えられない撮影が実現しました。さらに「構内の施設の屋上に上がらせてもらった」という貴重なアングルも。はやぶさ60号は実際に運行している列車で、撮影用に同じE5系の新幹線を7往復させたという徹底ぶり。
草彅剛の渾身の演技「この役をくれたことに、心から感謝」
主演の草彅剛は、車掌・高市役を演じるにあたり、「これまで自分がやってきたこと、そのすべてを注ぎ込めた」と満足げに語ります。「この作品は、僕の代表作になりました。『悔いはない』って思えるくらい満足しています」とその思いを明かしました。
興味深いのは、原作では草彅が敬愛する高倉健が主演でしたが、高倉は爆破を計画する犯人役。一方、草彅が演じる高市は爆破を回避し、乗客たちを守ろうと奮闘する役であり、立場が異なる点です。
撮影を終えた草彅は監督に「おこがましいかもしれないけど、監督もこの映画を撮るために生きてきたんじゃないか」と感じるほどの一体感を覚え、「俺たち、最高だったな」と肩を抱き合ったそうです。
細部までこだわったリアリティと映画的演出の妙
作品のリアリティにこだわった樋口監督は、脚本段階から鉄道のメカニズムを徹底的に研究。「新幹線の設計に詳しいブレーンに入ってもらって、技術的なメカニズムも研究しました」と語ります。
一方で、映画ならではの演出も。たとえば指令所の双眼鏡は、実際のJR東日本では「使いません」と言われたものの、「あの電光板って”昭和の象徴”なんですよね」と、あえて原作へのオマージュとして取り入れました。
「原作映画が公開された後、鉄道雑誌で『この映画のここがおかしい』といった指摘が列挙されていて、映画ファンでもあり鉄道ファンでもある僕としては、『楽しんだ映画にケチつけなくても…』と、すごく悔しかった」という思いから、今回は徹底的にリアリティにこだわりつつも「映画として成立させるためには”嘘”も必要」としています。
音へのこだわりも随所に
映像だけでなく音にもこだわりが満載です。草彅が「エンドロールの音って、新幹線が動き出すときの音と一緒だ」と気づくと、樋口監督は「さすが!そうなんです。オープニングの曲も、発車ベルと同じトーンで始まってるんです」と明かしています。
1975年版との精神的つながり
オリジナルとリブート版は時代も設定も異なりますが、「オリジナルの世界とちゃんと地続き」だと評されています。75年版の持つ「社会のひずみから生まれたアウトローが結局は破滅していく悲哀」という苦い魅力を継承しつつ、今作では「前作ではぷつりと絶たれた糸を、つなぎ止め、希望を見せる」という新たな解釈も加えられています。
舞台裏を彩る豪華キャスト
草彅剛を中心に、細田佳央太、のん、要潤、尾野真千子、豊嶋花、黒田大輔、松尾諭、大後寿々花、尾上松也、六平直政、ピエール瀧、坂東彌十郎、斎藤工など豪華キャストが集結。新幹線内の乗客から乗務員、さらには指令所スタッフまで、それぞれの立場で緊迫した状況に挑む姿が描かれています。
世界が認めた日本発のエンターテインメント
配信開始からわずか1週間で世界第2位のヒットとなった本作。日本のエンターテインメントの底力を見せつけました。樋口監督はかつての傑作を現代によみがえらせただけでなく、日本の伝統的な特撮技術と最新のVFXを融合させることで、新たな映像表現の可能性を示しました。
「撮り鉄ファン」の心をくすぐるような映像美、昭和の特撮映画へのオマージュ、そして何より、「鉄道人としての誇りと正義」を描いたヒューマンドラマとして、世代を超えて多くの人の心を掴んだ『新幹線大爆破』。この夏の必見作として、ぜひチェックしてみてください。