伝説のラーメン職人 「飯田商店」飯田将太が明かす成功の秘密と知られざる素顔

 東京ラーメン・オブ・ザ・イヤーTRY大賞総合1位を4連覇。名実ともに日本のトップに君臨する「飯田商店」。2025年に開店15周年を迎えたこの店の主宰、飯田将太氏は「ラーメンを麺類の世界一に」という壮大な目標を掲げ、日々進化を続けています。今回は、そんな飯田氏の知られざる素顔と、成功に至るまでの裏話をご紹介します。

借金返済のために始めたラーメン人生

 飯田将太氏は1977年、神奈川県真鶴町に生まれました。大学卒業後は和食の道に進み、東京の日本料理店で腕を磨いていました。しかし25歳の時、人生の大きな転機が訪れます。水産加工食品卸を営んでいた実家に多額の負債があることを知らされたのです。

「当時は和食の奥深さに惹かれて料理人としての道を歩んでいました。しかし家族のために地元に戻り、借金返済に奔走することになったんです」

飯田氏は叔父が経営するチェーン店「ガキ大将ラーメン湯河原店」の店主となり、約8年間ほぼ休みなく働き続けました。この時期が、彼のラーメン人生の原点となります。一度取り組むと夢中になる性格もあり、自分流の麺とスープを極めるべく研究を重ね、2010年に「飯田商店」をオープンしたのです。

開店当初は客ゼロの日も…逆境から学んだこと

 現在の飯田商店は朝7時から整理券が配られ、約130枚はあっという間になくなるほどの人気店です。しかし、開店当初は全く異なる状況でした。

「最初は客が一人も来ない日もありました」と飯田氏は振り返ります。この経験から、彼は「お客様は来てくださらないもの」という言葉を厨房に小さく貼り、初心を忘れないようにしているそうです。

「厳しい時期があったからこそ、お客様への感謝の気持ちを常に持ち続けられるんだと思います。今でも毎朝、お客様に出すものと同じラーメンを作って、品質をチェックしています」

伝説を作った「鶏清湯」から大胆な味の転換へ

 飯田商店が不動の人気を確立したのは、オープン以来守ってきた鶏清湯スープの「しょうゆらぁ麺」でした。しかし2019年、ファンを驚かせる大胆な決断を下します。3週間の休業を経て、鶏と豚のバランス系スープへと味を大きく変更したのです。

「鶏精湯スープを使用していましたが、2019年に潔く味を一新しました。醤油のキレにはこだわり続けながらも、国産鶏の旨みに加え国産豚のコク、さらに北海道産帆立と昆布がその味に磨きをかけています」

この大胆な転換は、飯田氏のラーメンに対する飽くなき探究心の表れでした。成功していた味を変えるという決断は大きなリスクを伴いましたが、結果として「TRY大賞」4連覇という偉業につながりました。

「日本のラーメンを麺類の世界一に」という壮大な野望

 飯田氏がラーメン作りに込める情熱は、単なるビジネスの成功を超えた壮大なものです。

「最終的にはラーメンの麺が『麺料理の中で一番』になることが、ぼくの目標です」と飯田氏は語ります。そのために、全国から厳選した素材を集め、独自にブレンドして最高の一杯を追求しています。

興味深いのは、飯田氏がラーメンの研究のために蕎麦の食べ歩きに熱心だという点です。「日本の麺料理といえば、まだまだ蕎麦にはかなわない。けれどもっと麺の改良を重ね極めれば、いつしかラーメンが蕎麦以上の食文化として根付く日が来るかもしれない…」という彼の言葉からは、日本の食文化全体を高めたいという高い志が感じられます。

プロ野球チームとタッグ!横浜スタジアム限定「すたぁ麺」の裏側

 2025年3月、飯田商店と横浜DeNAベイスターズの共同開発による新メニュー「すたぁ麺」が発表されました。これは横浜スタジアム限定のまぜそばで、球場という特殊な環境でも飯田氏のこだわりを実現した逸品です。

この開発秘話には感動的なエピソードがあります。横浜DeNAベイスターズの飲食部員・牧山佳奈氏が、「日本一予約の取れないラーメン店」と言われる飯田商店の予約を1か月半かけて取得。来店後、コラボメニューへの思いを手紙にしたためて店を出たところ、後日飯田氏から連絡があり、共同開発が実現したのです。

「球場っていう特性上汁物っていうのができないっていう、汁物なんか僕の人生の半分ですからね、麺とスープですからその半分を取られた状態でやってくっていう制約だらけでした」と飯田氏は語っています。このように厳しい条件の中でも、国産小麦を使用した麺や九条ネギ、厚木ハムのベーコンなど素材にこだわり抜いた商品を半年以上かけて開発したのです。

「本物」を追求し続ける哲学

 飯田氏は開店15周年を記念して『本物とは何か』という本を上梓しました。タイトルには、彼のラーメン哲学が凝縮されています。

「たくさんの生産者さんとお客さまの想いをいただいて、それを一杯のラーメンに結んでいく。これには終わりはない。やればやるほどゴールは遠くなるけど、こんなに楽しいことはない」

飯田氏の作る「しょうゆラーメン」の美味しい食べ方も話題です。彼によれば、最初に手前からスープを飲むと、比内地鶏などからとった旨み豊かな鶏油と豚の最高においしい脂身の旨味が合わさり、最高の一口を楽しめるそうです。

進化を続ける飯田商店の新たな挑戦

 「飯田商店」は単なるラーメン店の枠を超え、日本の食文化を担う存在へと成長しています。店舗戦略でも変化があり、長らく支店を出さない方針だった飯田氏ですが、2019年に静岡県沼津市の「ららぽーと沼津」に初の支店をオープンさせました。

また、マルニ食品株式会社と共同開発した「飯田商店監修しょうゆらぁ麺」がラーメンでは初めて「第45回ジャパン・フード・セレクション」で金賞を受賞するなど、その影響力は店舗の外にも広がっています。

飯田氏は今後も「本物のラーメン」を追求し続けるでしょう。彼の理念は、ラーメン界全体のレベル向上にも貢献しています。「一杯のラーメンに人生を賭ける」その情熱こそが、日本のラーメン文化を世界に誇れるものへと押し上げる原動力なのかもしれません。

飯田将太が考える「本当においしいラーメン」とは

15年の歳月をかけて極めてきた飯田氏のラーメン観は、多くのファンや料理人に影響を与え続けています。彼は「いつの日か『年越しそば』を『年越しラーメン』に」という夢を語ることもあります。

日本の食文化に新たな地平を切り開き続ける飯田将太氏。「TRY大賞」4連覇という偉業の裏には、一杯のラーメンに対する飽くなき情熱と探究心があったのです。今後も目が離せない、日本ラーメン界のレジェンドの挑戦は続きます。

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